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唇フィラー・あご先フィラーの後、唇の下の影が濃く見える理由 — オトガイ唇溝

「唇のフィラーも、あご先のフィラーも受けたのに、なぜか横顔が不自然なんです」。診察室でときどき伺う言葉で、唇とあごがちぐはぐに見えると表現される方もいらっしゃいます。フィラーが正しい位置に入っているのにバランスが崩れて見えるのであれば、唇とあご先に気を取られて見落としやすい場所を確かめる必要があります。それが唇とあご先の間のくぼんだ溝、オトガイ唇溝(labiomental crease)です。この記事では、その溝がより深く見えるのはなぜか、フィラーを計画するときに何を併せて見るのかを取り上げます。

3行まとめ

  • 唇とあご先が前に出ると、その間のくぼんだ部分が相対的にへこんで見え、影がより深く見えることがあります。この部分がオトガイ唇溝で、ここで大切なのは、埋めることよりもつなぐことです。
  • オトガイ唇溝は、皮膚だけが折れてできた跡ではなく、筋肉と皮膚がしっかりとつながる解剖学的な境界線です。年齢を重ねるにつれて、骨の支えの変化、深い層のボリュームの減少、支持靭帯の弱まりが重なると、より目立つことがあります。
  • フィラーを計画するときは、支える力のある物性、血管を考慮した深さとカニューレ、唇・あご先とのつながりを併せて見ます。カニューレを使っても血管閉塞のリスクは0ではなく、決まった正解の量もありません。

唇とあご先だけを補うと、なぜかえって不自然に見えるのか — 影の効果

唇とあご先は、フィラーでボリュームを出す施術が広く行われている部位です。ところが、ここに落とし穴が一つあります。上にある唇が前に出て、下にあるあご先も前に出ると、その間のくぼんだ部分は相対的にへこんで見え、照明の下では影がより深く見えることがあります。「唇の下の影」とおっしゃるのが、これにあたります。

両側に高い山がそびえると、真ん中の谷がより深く、暗く見えるのと同じです。こうした現象を、影の効果(shadow effect)と呼ぶこともあります。

影が濃くなると変わって見えること

  • 唇からあごへ続くラインが、ぷつりと途切れて見えることがあります。
  • あごが実際よりも前に出て見えることがあります。よく「しゃくれているようだ」と感じられる印象です。
  • 印象がやや頑固そうに見えたり、老けて見えたりすることがあります。

そのため、この部位で大切なのは埋めることではなく、つなぐことです。唇とあご先のボリュームだけでなく、その間をつなぐラインが自然であってこそ、横顔も自然に見えます。

オトガイ唇溝は単なるしわではなく、解剖学的な境界線です

オトガイ唇溝は「あご先のしわ」と呼ばれることもあり、英語ではmentolabial fold、またはmentolabial sulcusとも呼ばれます。この部位は、単に皮膚が折れた場所ではありません。筋肉と皮膚がかなりしっかりとつながる境界線であり、構造的には固定点(fixed point)としての性格が強い部位です。

筋肉が皮膚に直接つながる場所

口のまわりの筋肉やあごの筋肉といった顔の表情筋は、皮膚(真皮)に直接つながる形のものが多く、こうした筋肉と皮膚のつながりが特定の線をつくることがあります。オトガイ唇溝は、口のまわりの口輪筋(orbicularis oris)と、あごのオトガイ筋(mentalis)が出合う境界にあたります。

Zhangらが2025年にAesthetic Plastic Surgeryで発表した研究は、下顔面(顔の下の部分)のしわのうち、口角からあごへ下りていくしわ(labiomandibular fold、一般にマリオネットラインと呼ばれるしわ)をマイクロCTで調べた解剖学的研究です。オトガイ唇溝を直接扱った研究ではありませんが、この研究では、表情筋が真皮に垂直につながっており、コラーゲン・エラスチン・筋肉が密に絡み合った構造を介して筋肉が皮膚を引っ張ることが、しわの形成に関わっていると報告されています。オトガイ唇溝でも、筋肉と皮膚のこうしたつながりが、溝を同じ場所に固定する方向に働く可能性があります。

唇のすぐ下と、さらにその下との違い

唇のすぐ下の区域は線維性の支持構造がしっかりと固定されており、その下のほうは、もう少し粗く組まれています。この違いが、しわが折れる位置と深さに影響します。オトガイ唇溝が皮膚だけが折れてできた跡ではなく、構造がつくる境界線だというのはこのような意味で、そのためこの部位は、解剖学的な構造を正確に理解したうえで施術する必要があります。

オトガイ唇溝がより目立つ三つの理由

オトガイ唇溝は、年齢を重ねるにつれて、あるいは唇とあご先の施術のあとに、より目につくようになることがあります。ここには三つの変化が関わっています。

骨の支えの変化

年齢を重ねると、顔の骨は全体が均一に変わるのではなく、特定の区域で支持力が弱くなるという現れ方をします。こうした変化は、下顔面の輪郭としわの境界をより目立たせることがあります。

深い層のボリュームの減少

表面から見えるボリュームだけが減るわけではありません。顔では、深い層、つまり深層脂肪と支持層のボリュームの減少が先に、あるいはより大きく影響しうるという見方が強調されています。深いところの支えが減ると表面が下がって見え(偽性下垂)、その結果、唇とあごの境界がよりはっきり見える方向へ進みます。

とくに、口のまわりとあごのまわりの深部構造の変化は、オトガイ唇溝を目立たせる要素として扱われています。深い層のボリュームが減ることで境界線が目立ってくる過程は、前頬部のボリュームロスを取り上げた記事で、中顔面を例に整理しています。

支持靭帯・線維性隔壁の弱まりと、あごの筋肉

老化の過程で支持靭帯と線維性隔壁が弱くなると、固定点のまわりの境界がより強調されることがあります。また、オトガイ筋が強い、あるいは過度に活動している場合は、動きと固定点が重なって、線がより深く見えることがあります。このような場合には、ボツリヌストキシンが補助的に役立つこともあります。

フィラーを計画するときに見る三つのこと — まず物性から

オトガイ唇溝にヒアルロン酸フィラーを使う目的は、唇とあご先の間の深い溝を埋めて、唇からあご先までのラインが途切れずにつながるようにすることです。このときに確認するのは三つです。フィラーの物性、注入する深さと方法、そして唇・あご先とのつながりです。

この部位に合う物性 — 支持力と弾性

オトガイ唇溝は動きがあり、組織が硬めの部位です。そのため、柔らかすぎるフィラーだけを使うと、次のようなことが起こる可能性があります。

  • つないだラインが早く崩れることがあります。
  • 表面がでこぼこに感じられることがあります。
  • 持続期間が短く感じられることがあります。

そのため、この区域は通常、支える力、つまり形を保つ力を考慮して設計します。支持力が高く弾性(G')の高いフィラーに骨組みの役割を持たせたり、深いしわの部分をしっかりと支えたりする方法です。ただし、具体的な選択は、皮膚の厚み、溝の深さ、動きによって変わります。

深さの設計とカニューレ — 血管を考慮します

この部位にも血管が通っており、その走行にはかなりのバリエーションがあります。解剖学の研究では、下唇と下顔面のまわりの血管の走行がさまざまであるという点と、リスクを減らすために比較的安全な層(plane of safety)を守るアプローチが強調されています。

カニューレが好まれる理由

大規模な報告をもとにした比較では、カニューレのほうがニードル(注射針)よりも血管閉塞の報告が少なかったというデータがあります。ただし、カニューレを使えばリスクが0になるというわけではありません。広い部位をなめらかに整える目的と安全面を併せて考慮し、カニューレを好む流れがあります。

どの層に、どのような方法で、どれだけゆっくり

結果と安全の両方を左右するのは、どの層に、どのような方法で、どれだけゆっくり注入するかです。血管だけを考えれば、浅い層に注入するほうが適しています。ところが、浅い層だけに入れると持続期間が非常に短くなり、フィラーが動きやすくなります。そのため当院では、安全に注意しながら、カニューレで複数の層にわたって注入します。

血管が通っている部位ですので、当院ではオトガイ唇溝にニードルを使用しません。ニードルで深い層に注入すると、血管に関わるリスクを伴うことがあるためです。ただし、唇とあご先には、細かなボリュームをつけるためにニードルを併用します。下唇のまわりの解剖と注入の安全性については、Swancuttらが2025年にJournal of Clinical Medicineで発表した文献を参考にしました。

唇・あご先・オトガイ唇溝は、ひとまとまりとして見ます

オトガイ唇溝は、単独で埋めても改善することがあります。しかし多くの場合、唇、とくに下唇とあご先まで併せて見てこそ、横顔の流れが自然につながります。

決まった正解の量はありません

何ccが正解かというご質問には、決まった答えがありません。顔の構造、皮膚の厚み、動きによって変わるためです。量より先に見るべきなのは、過矯正にならずにつながりをつくる設計です。

口もとのしわとの関係

この部位がへこんでいると、口もとのしわ(マリオネットライン)もより目立って見えることがあります。マリオネットラインとそのまわりのたるみは、深部頬・jowlsのたるみを取り上げた記事で別にまとめています。

施術の前に知っておいていただきたいこと

  • 安全の原則 — どの部位であっても、フィラー施術では、解剖学の理解、注入の深さ、ゆっくり少量ずつ注入すること、緊急時の対応が重要です。この部位にも血管が通っており、カニューレを使用しても血管閉塞のリスクが0になるわけではありません。
  • 個人差 — フィラーの種類と量、注入する層は、顔の構造、皮膚の厚み、溝の深さ、動きによって変わります。この記事は一般的な説明であり、個別の診断に代わるものではありません。施術は、十分なカウンセリングを経たうえでお決めください。

参考文献

  1. Zhang M, Sun Y, Zhang Y, Dong R, Jin L, Chen Z, Yu N, Huang J, Long X. The Labiomandibular Fold Anatomy for Comprehensive Lower Facial Rejuvenation: A Micro-Computed Tomography Investigation. Aesthetic Plast Surg. 2025;49(11):2905-2914.
  2. Swancutt MM, Allard AJ, Ho A, Sloan S. Filling the Gap: Facial Anatomy and Safe Lower Lip Injection Practices. J Clin Med. 2025;14(9):3214. doi:10.3390/jcm14093214

診察から施術まで

皮膚科専門医が直接診察して原因の層を確認し、機器とパラメータを決めたうえで、同じ専門医が施術まで続けて行います。カウンセラーが施術をすすめる仕組みではありません。

回数・間隔・維持の時期・費用は、初回の施術前に一緒に決めます。

よくあるご質問

唇フィラーとあご先フィラーを受けたのに、なぜ唇の下の影がより濃く見えるのでしょうか?
唇とあご先が前に出ると、その間のくぼんだ部分が相対的にへこんで見え、照明の下では影がより深く見えることがあります。両側に山がそびえると、真ん中の谷がより深く見えるのと同じで、影の効果と呼ぶこともあります。フィラーが正しい位置に入っていても、二つの部位の間がつながっていないと、このように見えることがあります。
オトガイ唇溝は、ふつうのしわと何が違うのですか?
皮膚だけが折れてできた跡ではなく、筋肉と皮膚がしっかりとつながる解剖学的な境界線です。口のまわりの口輪筋と、あごのオトガイ筋が出合う場所で、構造的には固定点としての性格が強いところです。そのため、解剖学的な構造を正確に理解したうえで施術する必要がある部位です。
年齢を重ねるとオトガイ唇溝がより深く見えるのは、なぜですか?
三つの変化が重なることがあります。顔の骨の支持力が特定の区域で弱くなり、深い層のボリュームが減って表面が下がって見え、支持靭帯と線維性隔壁が弱くなります。そこに、あごの筋肉であるオトガイ筋が強い、あるいは過度に活動していると、線がより深く見えることがあります。
オトガイ唇溝だけを埋めればよいのでしょうか?
単独で埋めても改善することがあります。ただし多くの場合、唇、とくに下唇とあご先まで併せて見てこそ、横顔の流れが自然につながります。そのため、三つの部位をひとまとまりとして設計します。
フィラーは何cc入れる必要がありますか?
決まった正解の量はありません。顔の構造、皮膚の厚み、動きによって変わるためです。量よりも、過矯正にならずに唇からあご先までのつながりをつくる設計のほうが重要です。
オトガイ唇溝には、どのような物性のフィラーを使いますか?
オトガイ唇溝は動きがあって硬めの部位ですので、柔らかすぎるフィラーだけを使うと、ラインが早く崩れたり、表面がでこぼこに感じられたり、持続期間が短く感じられたりすることがあります。そのため、支える力、つまり支持力と弾性を考慮して選びます。具体的な選択は、皮膚の厚み、溝の深さ、動きによって変わります。
この部位のフィラー施術は危険ですか?
どの部位であっても、フィラー施術では、解剖学の理解、注入の深さ、ゆっくり少量ずつ注入すること、緊急時の対応といった安全の原則が重要です。この部位にも血管が通っており、その走行にはバリエーションがあります。カニューレのほうがニードルよりも血管閉塞の報告が少なかったというデータがありますが、リスクが0になるわけではありません。
カニューレとニードルのどちらで施術しますか?
血管が通っている部位ですので、当院ではオトガイ唇溝にニードルを使用せず、カニューレで複数の層にわたって注入します。浅い層だけに入れると持続期間が非常に短くなり、フィラーが動きやすいためです。唇とあご先には、細かなボリュームをつけるためにニードルを併用します。
ボツリヌストキシンが役立つ場合もありますか?
あごの筋肉であるオトガイ筋が強い、あるいは過度に活動していると、動きと固定点が重なって、線がより深く見えることがあります。このような場合には、ボツリヌストキシンが補助的に役立つこともあります。ただし、あくまでも補助的な役割です。
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