「頬がこけてきた気がします」と「顔がたるんできた気がします」は、診察室でほぼ同じくらいよく出てくる言葉です。ところが一緒に鏡を見ながらどこのことかを確かめてみると、この二つの表現が指している場所は同じであることが少なくありません。それが前頬部 — 頬骨がいちばん前に張り出す位置と、そのすぐ前のコンパートメントです。この記事では、なぜこの一つのコンパートメントのボリュームが減るだけで中顔面全体が老けて見えるのか、そしてなぜリフトアップの施術を繰り返すだけではその印象が変わりにくいのかを、層ごとに整理します。
3行まとめ
- 中顔面の脂肪は筋肉を境に浅層と深層に分かれ、支持靭帯と筋肉が壁の役割を果たして、さらにいくつものコンパートメントに区切られています。加齢では深層は主に減り、浅層は主に下がります。
- 前頬部の深層脂肪が減ると、その上に乗っていた組織は支える土台を失います。涙溝・眼瞼頬溝・ほうれい線といった境界線が目立ってくるのはこのときで、「たるんだ」という印象の出発点がボリュームロスであることは少なくありません。
- ボリュームを補うことと支持構造を引き上げることは別の作業です。土台が空いたまま引き締める施術だけを繰り返すと目標とずれることがあるため、原因の層を先に確かめて順番を決めることがカウンセリングの中心になります。
中顔面はどこまでを指し、なぜ「コンパートメント」で見るのか
中顔面とは、顔を上・中・下に三分割したときの真ん中を指します。中央にある鼻を含めて、目の下、前頬、横頬あたりまでが入るとお考えください。この中には、さまざまな表情筋とともに、いくつもの脂肪コンパートメントが収まっています。
大切なのは、顔の脂肪がひとかたまりではないという点です。脂肪はいくつもの区画に分かれていて、区画と区画の間には壁があります。脂肪コンパートメントを「部屋」と考えると、その部屋の壁をつくっているのが支持靭帯と筋肉です。この壁があるため、どこか一つの区画のボリュームが減っても、隣の区画の脂肪がその場所を埋めてくれることはありません。空いた区画は空いたまま残り、壁のほうが相対的に目立ってきます。中顔面の老化が「全体的に少しずつ痩せる」形ではなく「特定の線と影が目立つ」形で現れるのは、このためです。
浅層と深層を分ける基準は「筋肉」
脂肪を浅層と深層に分ける基準は、深さそのものではなく筋肉を境にどちら側にあるかです。頬の部位では眼輪筋が基準になります。断面で見たとき、筋肉より表面側にあるのが浅層脂肪、筋肉より内側にあって骨に近いのが深層脂肪です。
実際の中顔面は、これよりさらに細かく層に分けて説明されることもあります。表面から順に、皮膚、浅層脂肪、SMAS(ここでは眼輪筋)、眼輪筋下脂肪(SOOF)、深側頭筋膜浅葉の中顔面への延長、頬骨前間隙の中の骨膜前脂肪、そして骨膜という並びです。
これらの名前を患者さんが覚える必要はありません。ただ一つだけ、同じ製剤を同じ量入れても、どの区画に入れるかで結果が変わるという点を覚えていただければ十分です。層の話をこれだけ長くしている理由も、結局はその一点にあります。
中顔面の老化は三つの層で同時に進みます
正確に言えば、中顔面の変化は脂肪だけの問題ではありません。異なる三つの層で同時に起こります。
- 皮膚 — 真皮のコラーゲンをはじめとする細胞外マトリックスの構成成分が減ることで、ハリが低下し、トーンが不均一に見え、小じわができます。
- 脂肪 — コンパートメントごとにボリュームが減ったり、下に下がったりします。この記事の中心テーマです。
- 骨 — 形が変わることもあり、そもそも人によって構造が違います。後ほど改めて取り上げます。
三つの層のうちどれの比重が大きいかは人によって異なります。ただ、診察室で「中顔面が老けて見える」とお話しされる方を拝見していると、肌のハリよりも脂肪コンパートメントの変化のほうが印象を大きく左右していることがよくあります。スキンケアを熱心に続けても印象が変わりにくいと感じておられるなら、見るべき層がもう一つ残っているサインかもしれません。
浅層脂肪と深層脂肪は「動き」が違います
二つの層の違いは位置だけではありません。超音波で浅層脂肪と深層脂肪の位置を観察した研究では、笑ったときに浅層脂肪だけが上方へ移動し、深層脂肪はその場にとどまっていたと報告されています。表情をつくると浅層は筋肉に沿って動きますが、深層は動かずに内側からボリュームを支える役割を担っているわけです。
この違いは、実際の施術設計にそのまま反映されます。何かを補う施術は、基本的に深層に行うほうが有利です。表情によって動く区画に注入物を入れると、しこりになったり位置が変わったりしやすいためです。
深層に入れたものはなぜ流れ落ちないのか
解剖図だけを見ると、頬骨の前に入れた注入物が崖にぶら下がるように下へ流れ落ちそうに見えます。実際にはそうではありません。この区域は上下の支持靭帯と筋肉によってよく囲まれた区画であるため、中に入ったものは大きく移動しにくいと考えられています。先に見たとおり、深層そのものが表情によって動きにくい層であることも理由の一つです。
逆に、同じ部位でも浅く注入すると話が変わります。浅層脂肪とともに表情に合わせて動き、時間が経つと重力の方向へ一緒に下りてくることがあります。部位によっては境界が透けて見えたり、しこり感が出たりすることもあります。目の下のように皮膚が薄い区域で、製剤選びと注入方法がとくに難しくなるのはこのためです。
付け加えると、前頬部の深層は重要な神経・血管が比較的少ない層と考えられています。とはいえ、どのような注入施術であってもリスクがないとは言えません。解剖学的な層を正確にとらえ、少ない量で、注入方法と器具を状態に合わせて選ぶ過程が必要になるのはそのためです。
同じ顔の中でもコンパートメントごとに老化の速さが違います
脂肪コンパートメントは、加齢に伴う変化の現れ方がそれぞれ異なります。深さによる違いもありますし、同じ深さでもコンパートメントごとに変化の速さに差があります。部位ごとに代謝の特性が異なるためと説明されています。
一般に知られている方向はこうです。深層脂肪はボリュームが減ります。そして浅層脂肪は、内側で支えていた構造の力とハリが低下することで重力の方向へ下がってきます。同じ「脂肪の老化」という言葉の中に、性質の異なる二つの変化が入っているわけです。
何が残っているかが印象を分けます
深さによる違いをはっきり示す対比があります。一方は、浅層脂肪は大きく減っているものの深層脂肪はよく残っている顔です。この場合、こめかみや横頬のこけは目立ちますが、目の下のくぼみやほうれい線は目立たず、中顔面の輪郭は保たれます。
もう一方は、浅層脂肪はよく保たれているのに深層脂肪が失われた顔です。この場合は前頬のボリュームが減り、涙溝・眼瞼頬溝・ほうれい線が目立ちます。触れて分かる肉づき自体は少なくないのに、顔はより老けて見えます。
二つの顔を並べて見ると、中顔面の輪郭を支えている比重がどちらにあるかがはっきりします。深層脂肪のある前頬部のボリュームが中顔面の印象に占める割合は、それだけ大きいということです。
こけるのには順番があります
同じ深さの中でも、コンパートメントごとに順番があります。浅層脂肪でよく観察される変化は、鼻の横の脂肪コンパートメントは下へ下がり、その上の頬の脂肪コンパートメントはボリュームが減ってこけ、さらにその上の目の下の脂肪は下へ下がって目の下のふくらみ(眼袋)をつくる、という形です。
全体の流れを見ると、目のまわりが先にこけ、続いて前頬部のボリュームがこけ、その次に横頬がこけ、ほうれい線の上の脂肪はしばらく下がるだけで、遅れてボリュームが減っていくという順で進むと考えられています。
ただしこの順番は、欧米の方を対象とした資料をもとに整理されたものです。東アジアの方を対象とした研究では、目の下の脂肪のボリューム減少が遅れて現れることが多く、目の下の脂肪が残ったまま下へ押し出されて、ふくらみがより目立って見える傾向があります。あとで見る骨の老化の現れ方の違いも、ここに関わってきます。
結果として前頬はこけ、目の下とほうれい線のまわりはボリュームが残ったまま下りてくるという二つの変化が、一つの顔で同時に起こります。空いた場所と下りてきた場所がすぐ隣り合うので境界はより鮮明になり、中顔面の老化は実際の組織の変化量よりも大きく見えることになります。
「たるんだ」という印象は、なぜボリュームロスから始まるのか
人は顔を平面としては見ていません。光と影、そして境界線として読み取ります。ですから印象を決めるのは、組織がどれだけ減ったかよりもどの線が新しく見えはじめたかであることが多いのです。
深層脂肪が減ると、コンパートメントとコンパートメントを分けていた支持靭帯が相対的に目立って見えます。もともとあった構造なのに、両側のボリュームが抜けることで溝のように現れるわけです。中顔面でこのように現れる代表的な線が涙溝、眼瞼頬溝、ほうれい線です。
ここが重要です。これらの線は皮膚が折れてできたしわというより、下が空いたことで現れた境界であることが少なくありません。原因が表面にないのに表面だけを扱うと、変化を実感しにくい理由がここにあります。
土台がなくなると上の組織は沈みます
もう一つの経路があります。深層脂肪は、上にある組織を内側から支える土台の役割を果たしています。この土台が薄くなると、浅層脂肪がどれだけ十分に残っていても、その位置を保ちにくくなります。浅層は表情によって動く層ですから、支えが弱くなった方向へ少しずつ下りてくることになります。
その結果できあがる配置が、上(前頬部)は空いて見え、下(ほうれい線の上)は厚ぼったく見える形です。患者さんはこの状態を「頬がたるんだ」と表現されますが、実際に何かを失った場所はそれより上であることがよくあります。
下りてきた部分だけを引き上げて整えようとするアプローチが期待どおりにいきにくい理由も、ここにあります。下りてきた組織を上へ引き上げても、上がった先に土台がなければ、その形は自然に落ち着きにくいのです。
笑ったときと無表情のときが違う理由
「笑えば大丈夫なのに、じっとしていると老けて見える」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。この観察は、これまで見てきた層の構造で説明できます。笑うと浅層脂肪が上方へ移動し、前頬部の位置に一時的にボリュームが乗ります。深層が空いていても、その瞬間は満たされたように見えるわけです。
ところが表情をゆるめると浅層脂肪はもとの位置に戻り、空いていた場所が再び現れます。表情がつくってくれていたボリュームが消える瞬間に、もとの構造が見えるということです。この差が大きいほど、深層のボリュームの比重が大きいと考えられます。
鏡をご覧になるときにこの二つの状態を交互に確かめてみると、ご自身の変化がどちらから来ているのかを見当づける助けになります。もちろん最終的な判断は、視診と触診を合わせた対面の診察で行います。
同じ年齢なのに違って見える理由 — 骨とベクトル
脂肪の下には骨があります。年齢を重ねると骨も減ります。中顔面ではとくに頬骨の中でも下のほうが大きくくぼむと言われていますが、これは主に欧米の方を基準に整理された現れ方です。
東アジアの方を対象とした研究では、少し違う様子が報告されています。欧米の方のように前頬骨の下側がへこむのとは異なり、頬骨の上側、つまり眼窩まわりの後退のほうが目立ちやすいという報告です。そのため、目のまわりの支持靭帯を基準とする構造物が支えられる土台を失い、下へ下りてきたり、目の下が深くくぼんで見えたりすることが多くなります。同じ「目の下がこけて見える」というお悩みでも、その背景が欧米の資料とは異なることがあるということです。
老化より「もともとの構造」が先である場合
ところが骨に関しては、加齢による変化よりも個人による骨格構造の違いのほうが重要だという見方もあります。診察室で受ける印象ともよく合う説明です。
- negative vector — 頬骨が小さい、あるいは目に対して後ろに入っている形です。若いうちは骨の上を覆う軟部組織のボリュームがこれを隠してくれますが、30代でも中顔面の老化が目立つことがあります。
- positive vector — 頬骨が大きい、あるいは目より前に出ている形です。同じ速さで年齢を重ねても、中顔面のたるみが現れるのは遅い傾向があります。
骨の老化は他の組織よりもゆっくり進みます。それでも、30代という若い年齢で中顔面のこけが目立つケースは珍しくありません。若い年齢で中顔面の変化が現れているなら、「老化」よりも「もともとの骨格構造」の比重が大きい可能性が高いと考える理由です。
これは欠点を指摘する話ではありません。むしろ設計に必要な情報です。どこが足りなくてこの印象がつくられているのかが分かれば、どこに土台をつくるべきかも一緒に決まるからです。
分類で見ると順番が見えてきます
中顔面の老化をタイプに分けてアプローチを整理した議論がいくつかあります。細かい基準は少しずつ違いますが、共通点が一つあります。ボリュームを先に見るのか、支持を先に見るのかを分けている点です。
ボリューム・たるみ・ハリ・ベクトルの四つの軸
ある分類は、ボリュームの減少、中顔面のたるみ、ハリの低下、頬骨が前に出ている程度(ベクトル)の四つを基準にタイプを分けます。老化の程度によってI・II・IIIに、ベクトルによってA・Bに分ける方式です。
- I — 中顔面のボリュームだけが減った状態
- II — わずかなたるみとハリの低下を伴う状態
- III — たるみとハリの低下がはっきりしている状態
- A / B — 頬骨の突出の程度(positive / negative vector)による区分
ベクトルがサブタイプを分ける基準として使われるほど比重が大きい点は注目に値します。たとえばIBは、頬の部位のボリュームが足りない(negative vector)ために、若い年齢でも中顔面が老けて見える状態です。IIAは、頬骨がボリュームを支えてくれているためこけ自体は強くないものの、浅層脂肪の減少とたるみが見られる状態です。同じ「中顔面の老化」でも必要な作業が違う、というのがこの分類の要点です。
この分類を提示した研究は、形成外科領域の外科的な方法を中心に推奨をまとめています。エイブル皮膚科は脂肪注入・フェイスリフトなどの外科的な方法を行っておりません。当院では同じ層に、注射を基本とした非外科的な方法でアプローチします。ただし分類が伝えるメッセージ自体はそのまま有効です。進行がはっきりしているIIIタイプを除けば、多くの場合前頬部のボリュームの改善が出発点になるという点です。
フィラーを用いたアルゴリズムでの順番
日本人の患者さんを対象に、涙溝と目の下のふくらみの改善方法を整理した分類もあります。頬骨が前に出ている程度と、笑ったときにふくらみが悪化するかどうかを基準に三つのタイプに分けます。
- Type 1 — 頬骨のボリュームは足りているのに涙溝が目立つ場合です。涙溝と眼瞼頬溝のまわりに柔らかい製剤を浅く敷いていく繊細な作業が必要になります。しこりにならずよく広がり、境界が透けて見えないことが求められるため、製剤選びと注入方法の両方が重要です。
- Type 2 — 頬骨のボリュームが足りず、笑ってもふくらみが変わらない形です。このタイプではnegative vectorの改善が先に行われるべきだと考えます。弾性と凝集性の高い硬めの製剤を深層に注入する方法です。
- Type 3 — 頬骨のボリュームが足りないうえ、笑ったときにふくらみが悪化する形です。Type 2と同じく深層の頬のボリュームを先に整えたうえで、Type 1のように涙溝と眼瞼頬溝を整え、必要であれば目の下に少量を足すという順番を踏みます。
Type 2とType 3では、目に近い部位よりも中顔面を中心に改善点を見ていくと、前頬部の深層を補うだけで印象が整う場合が観察されます。もちろんタイプによっては浅層の作業が追加で必要になることもあります。
「どこに」入れるかは顔の構造によって違います
注入する位置もそのまま当てはめることは難しいものです。欧米の方を基準とした資料では、深層の内側・外側の頬脂肪コンパートメントにまとめて入れ、浅層の内側頬脂肪には線状後退法で薄く伸ばすやり方が勧められています。これは前頬骨の下側がくぼむ現れ方を前提とした配置です。
東アジアの方では、前頬部の前面が全体的にこけている場合が多く見られます。そのため、頬骨の前のSOOFと骨膜前脂肪コンパートメントを補うほうが自然に仕上がります。分かりやすく言えば前頬部の上に骨組みを一枚立ててあげるという考え方に近いものです。頬を新たにつくって貼りつけるのではなく、本来あるべき土台を取り戻す作業です。
補うことと引き上げることは別の問題です
リフトアップはゆるんだ支持構造を引き締めて元の位置に戻そうとする作業です。ボリュームの補強は、失われた土台をつくり直す作業です。この二つは似たような悩みから出発しますが、扱う対象そのものが異なります。
ですから判断の出発点は、機器や製剤ではなく問いです。いまのこの顔の変化はゆるみから来ているのか、減少から来ているのか。実際には二つが混ざっている場合がほとんどで、その比重は人によって違います。
リフトアップだけでは解決しない場合
- 前頬部がすでに空いている場合 — 引き締める組織はあっても、その組織が乗る土台が薄い状態です。表面が整っても、こけた印象はそのまま残りやすくなります。
- negative vectorがはっきりしている場合 — 構造的に足りない支えを、エネルギー機器が代わりにつくってくれるわけではありません。ゆるみではなく構造が主な原因だからです。
- 骨格の要因が大きい30代 — ハリの低下がまだ大きくない状態で引き締めるアプローチを繰り返すと、実感が乏しくなることがあります。
- 浅層脂肪がすでに薄い場合 — 組織が残っていてこそリモデリングの反応も出ます。残っているものが少なければ、期待値を調整するほうが現実的です。
これはどの施術が優れているかという話ではありません。それぞれが何を扱う道具なのかを区別しましょうという話です。リフトアップ機器は顔のいくつもの層のうち一つの層を扱う道具であり、ボリュームの補強はまた別の層を扱う道具です。
順番を決めるときに実際に見ているもの
診察室で順番を決めるときに確認する流れは、おおむね次のとおりです。
- 原因の層の確認 — 皮膚・浅層脂肪・深層脂肪・骨格のうちどれの比重が大きいかを視診と触診で見ます。笑ったときと無表情のときの変化、うつむいたときの変化も合わせて見ます。
- 土台づくり — 前頬部の深層のボリュームが主な原因であれば、こちらを先に扱います。土台ができると、その上の組織の配置が変わるため、その後に必要な作業の量そのものが減ることがあります。
- 支持構造の調整 — ゆるみの比重が大きければ、エネルギー機器を続けて計画します。
- 間隔の調整 — 注射の施術とエネルギー機器の間には間隔を空けます。熱や超音波のエネルギーが注入された物質に影響することがあるため、順番と間隔は個別に決めます。
ただしこの順番がすべての方にそのまま当てはまるわけではありません。すでにリフトアップのご予定が入っている場合、補うボリュームが少量の場合、回復にあてられる日程が限られている場合には順番を調整します。大切なのは決まった順番を守ることではなく、なぜその順番なのかを一緒に確認することです。
期待値をどこに置くか
前頬部のボリュームを補ったからといって、顔全体の老化が巻き戻るわけではありません。この作業が扱うのは中顔面の印象の基準線です。基準線が整うと、同じ顔でも影の位置が変わり、その結果、他の部位に必要な作業の量が減ることがあります。
逆に、この作業では解決しないこともはっきりしています。すでに進んだ肌のハリの低下、表面の小じわやキメ、色素の問題は別の層の課題として残ります。首やあごの下の変化も別のものです。一つの施術ですべての層を同時に扱おうとする計画よりも、層ごとにやるべきことを分けて考える計画のほうが、結果的に満足度は高い傾向にあります。
もう一つ、ボリュームの補強は一度で終わるケアではありません。使用した製剤や個人の代謝によって持続期間は異なり、その間も老化は進んでいきます。はじめからメンテナンスの時期と再評価の時期を一緒に決めておくほうが、予算と日程を計画するうえでも進めやすくなります。
エイブル皮膚科で前頬部のボリュームに用いる手段
まず前提をはっきりさせておきます。前頬部の深層を扱う目的は顔を大きくすることではなく、土台を取り戻すことです。多くの場合、両側を合わせて比較的少ない量の中で計画がまとまりますが、必要な量と方法には個人差が大きくあります。
形をその場でつくる必要があるとき — フィラー
ヒアルロン酸フィラーは、深層に少量を入れて形をその場で確認できる点が大きな利点です。前頬部のように左右のバランスと位置が重要な区域では、この予測のしやすさが大きく効いてきます。必要な場合にヒアルロニダーゼで調整する余地があるという点も、計画を立てるときに考慮します。
ここでよく誤解される点を一つ挙げておきます。フィラーはボリュームを補うだけの製剤と思われがちですが、機械的な刺激を通じてコラーゲンの生成を促すことが報告されています。年齢とともにコラーゲンの合成が減る理由として、線維芽細胞の機能低下とともに機械的刺激の減少が挙げられており、フィラーはこの刺激を取り戻す側にあたります。研究では、施術から1週間ごろに合成のシグナルが活性化し、4週間ごろにコラーゲンの生成が確認され、6か月まではシグナルが維持されたのち、9か月ごろからシグナルが減っていく流れが報告されています。すでにつくられたコラーゲンは比較的よく保たれる傾向があります。ただしこうした経過には個人差があります。
同じヒアルロン酸でも目的の違う製剤があります。BELOTERO REVIVEはボリュームをつくる製剤ではなく、水分とキメを扱うブースター系です。前頬部の土台を立てる用途とは役割を分けて使います。
時間をかけて密度を上げるとき — コラーゲンブースター
フィラーに抵抗がある場合や、形よりも全体的な密度を目標とする場合には、コラーゲンブースター系を検討します。エイブル皮膚科で使用している製剤はスカルプトラ(Sculptra、PLLA)、ジュベルック ボリューム(PDLLA)、レディエッセ(Radiesse、CaHA)、GOURI(液状PCL)です。共通するのは、物質に対する組織の反応を通じてコラーゲンの生成を促すという点と、即時のボリュームよりも時間の経過とともに密度が上がっていく方式である点です。
長所と短所ははっきりしています。繰り返しの施術が必要で、最終的なボリュームを正確に予測しにくい点が限界です。逆に、特定の形を精密につくる必要がある状況でなければ、組織そのものの密度を上げるアプローチのほうが自然な場合もあります。
レディエッセは少し違う性格を持ちます。CaHAの粒子とCMCゲルで構成されているため、施術直後はゲルがボリュームをつくり、1か月ほど維持されながら機械的な刺激が加わります。生理食塩水で希釈して施術直後に水分がすぐ吸収される製剤が、組織反応によるコラーゲン生成を主に狙うのとは経過が異なります。ただし製剤間でコラーゲン生成の総量を直接比較した研究はないため、どちらが優れているとは言い切れません。
肌のキメ・密度も一緒に見るとき — ブースター系
Re2O(hADM)、CellREDM(hADM)、HILO WAVE(Dual-HA)は、構造を立てる手段ではなく、真皮の密度と肌のキメを一緒に扱う手段です。前頬部のボリュームの代わりにはなりませんが、ボリュームを補ったあとにも残る表面の問題を整えるために組み合わせて使います。
順番を誤解されないほうがよいと思います。ブースター系をどれだけ繰り返しても、空いている深層の土台が満たされることはありません。逆に、土台が整ったのに肌のキメや水分感が物足りない場合には、この系統が残りの部分を補ってくれます。二つの作業は競合するものではなく、順番の問題です。
支持構造を扱うとき — エネルギー機器
ゆるみの比重が大きい場合には、エネルギー機器が役割を果たします。ウルセラプライム(高密度焦点式超音波)、デンシティ(シーケンシャル高周波)、オンダ(マイクロ波)、オレウェーブ(圧電式体外衝撃波)は、それぞれ異なる層に異なる物理量で作用します。
繰り返しになりますが、これらの機器はボリュームロスそのものを戻す道具ではありません。前頬部が空いた状態で引き締める施術だけを繰り返すと、目標とずれることがあります。逆に土台が整ったあとに用いると、同じ強度でも結果の方向が変わる場合があります。
このような場合は先に整えてから進めます
- 施術部位に活動性の感染や炎症がある場合
- 妊娠中または授乳中の場合
- 同じ部位に最近ほかの注入施術を受けていて、間隔の調整が必要な場合
- ケロイド・肥厚性瘢痕の既往がある場合や自己免疫疾患を治療中の場合 — 製剤選びと間隔を個別にご相談します
- 抗凝固薬の服用などで内出血・出血しやすい傾向がある場合 — 時期と方法を調整します
腫れと内出血は比較的よくある経過で、個人差があります。まれではありますが血管に関連する合併症の可能性があるため、注入する層と方法は慎重に選びます。既往歴とこれまでの施術歴をカウンセリングのときに正確にお伝えいただけると、より安全に計画を立てることができます。
何を基準に選ぶのか
製剤名より先に決まるのは、次の項目です。カウンセリングではこの順で確認します。
- どの区画が空いているか — 前頬部の深層なのか、浅層なのか、目の下に近い区域なのかによって、層と製剤が変わります。
- 頬骨のベクトル — 目と頬の前後関係を確認します。構造的に足りない場合は、深層の土台を立てるほうが先です。
- 形が重要か、密度が重要か — 左右のバランスと位置を精密に合わせる必要があればフィラーが、全体的な密度を目標とするならコラーゲンブースターが扱いやすくなります。
- 回復にあてられる時間 — 腫れと内出血を受け入れられる日程によって、施術の時期と一度に進める範囲が変わります。
- これまでの施術歴 — 同じ部位に残っている注入物やエネルギー機器の履歴によって、間隔と順番を調整します。
最後に一つだけ付け加えます。中顔面の老化が始まったときによくある選択は、とりあえず引き締める施術から試してみることです。ところが前頬部という一つのコンパートメントのボリュームが原因のかなりの部分を占めているなら、その選択は原因とずれた順番になります。どの層が空いているのかを先に確かめるだけでも、時間と費用の向かう先が変わることがあります。
診察から施術まで
皮膚科専門医が直接診察して原因の層を確認し、機器・パラメータを決めたうえで同じ専門医が施術まで続けて行います。カウンセラーが施術を勧める仕組みではありません。
回数・間隔・メンテナンスの時期・費用は、初回の施術の前に一緒に決めます。
よくあるご質問
- 腫れや内出血はどれくらい続きますか?
- 腫れと内出血は比較的よくある経過で、個人差があります。注入する層と方法、ふだん内出血しやすい体質かどうかによって回復までの期間が変わります。大切なご予定がある場合は事前にお知らせいただければ、それに合わせて施術の時期を調整します。
- 脂肪注入やフェイスリフトはどうですか?
- エイブル皮膚科は脂肪注入・フェイスリフトなどの外科的な方法を行っておりません。当院では同じ層に、注射とエネルギー機器を用いた非外科的な方法でアプローチします。外科的な方法をご検討の場合は、該当する診療科でご相談いただくのが適切です。
- ボリュームの補強とリフトアップを同じ日に受けてもよいですか?
- 状態によって異なります。熱や超音波のエネルギーが注入された物質に影響することがあるため、順番と間隔は個別に決めるのが原則です。補強する量が少ない場合や部位が重ならない場合には、調整が可能なこともあります。ご予定と回復にあてられる時間を合わせて考えながら計画します。
- 効果はどれくらい持続しますか?
- 製剤の種類、注入する層、個人の代謝や生活習慣によって差が大きくなります。深層に注入した場合は表情による動きが少ないため持続期間は比較的安定しているほうですが、期間を言い切ってお伝えするのは難しいところです。初回の施術のときにメンテナンスの時期を一緒に決め、経過を見ながら補強の時期を調整します。
- 前頬部を補うと、涙溝やクマも一緒によくなりますか?
- 涙溝が下の支えを失って現れた境界であれば、前頬部の深層を補うだけで薄くなることがあります。ただし目の下の脂肪の位置や皮膚の薄さ、色素の要因が一緒に関わっている場合には、その部位を別に扱う必要があります。原因が複数に分かれていることがあるため、目の下は別に評価するほうが正確です。
- フィラーを入れると顔が大きく見えたり、やりすぎに見えたりしないか心配です。
- 前頬部の深層を扱う目的は、ボリュームを増やすことではなく、本来あるべき土台を取り戻すことです。この区域は少ない量でも印象が整う場合が多く、よく思い浮かべられるような過剰な見た目にならないように計画できます。必要な量と位置は骨格と減少の程度によって変わりますので、初回の施術の前に目標を一緒に決めます。
- フィラーとコラーゲンブースターでは、前頬部にはどちらが合いますか?
- 形と左右のバランスをその場で確認する必要がある状況では、フィラーのほうが扱いやすくなります。逆に、特定の形よりも全体的な密度を上げることが目標であれば、スカルプトラ(Sculptra)・ジュベルック ボリューム・レディエッセ(Radiesse)・GOURIといったコラーゲンブースターを検討します。コラーゲンブースターは繰り返しの施術が必要で、最終的なボリュームを正確に予測しにくいという点をあらかじめ踏まえておかれるとよいと思います。
- 前頬部にフィラーを入れると、下に流れ落ちたりしませんか?
- 解剖図だけを見るとそう見えますが、前頬部の深層は上下の支持靭帯と筋肉に囲まれた区画であるため、移動が少ないほうだと考えられています。この層そのものが表情によって動きにくい層でもあります。ただし同じ部位でも浅く注入すると浅層脂肪とともに下へ下りてくることがあるため、注入する層を正確にとらえることが大切です。
- 30代ですが、すでに中顔面がこけて見えます。老化が早いほうなのでしょうか?
- 必ずしもそうとは限りません。骨の老化は他の組織よりもゆっくり進むため、若い年齢で中顔面のこけがはっきりしている場合は、老化よりももともとの骨格構造の比重が大きい可能性があります。頬骨が目に対して後ろに入っている形では、軟部組織が隠してくれていた時期を過ぎることで変化が早く現れることもあります。この場合はどこが足りないのかが比較的はっきりしているため、計画を立てること自体はむしろ進めやすいほうです。
- リフトアップの施術を何度も受けているのに、なぜ印象が大きく変わらないのでしょうか?
- たるみの主な原因がボリュームロスであれば、引き締める施術だけを繰り返しても変化を実感しにくいことがあります。前頬部の深層が空いていると、引き上げた組織が落ち着くための土台が足りないためです。このような場合は原因の層を改めて確認し、ボリュームの補強と支持構造への施術の順番を調整するほうが役に立ちます。
- 前頬部のボリュームが減ったのか、皮膚がたるんだのか、どう見分ければよいですか?
- 鏡の前で無表情のときと少し笑ったときを比べてみると、ヒントが得られます。笑ったときに頬の前側にボリュームが戻り、溝が薄くなるようであれば、ボリュームロスの比重が大きいほうです。逆に、うつむいたときに下のラインがより崩れて見えるなら、ゆるみの比重が大きいと考えられます。ただし多くの場合は二つが混ざっているため、どちらの比重が大きいかは、視診と触診を行う対面の診察で確かめるほうが正確です。