酒さや敏感肌で診察にいらっしゃる方が、長いあいだ繰り返し聞いてこられた説明があります。「ケミカル(紫外線吸収剤)ではなくノンケミカル(紫外線散乱剤)を使ってください」というものです。紫外線をはね返すから刺激が少なく、熱も出ないので敏感な肌に安全だ、という説明がセットでついてきます。ところが、その話を聞いてノンケミカルに替えたあと、落ちにくいために毎日ダブル洗顔でこすってしまい、かえって顔が赤くなった状態でいらっしゃる方も少なくありません。この記事は、ノンケミカルが間違いだという話ではありません。そのすすめ方の根拠を正確に確かめ、弱点まで一緒に見ておきましょう、という話です。
3行まとめ
- ノンケミカルも紫外線を反射ではなく、その多くを吸収で防いでいます。光学測定の研究では紫外線領域の平均反射率は4〜5パーセント程度で、残りは半導体のバンドギャップ吸収によるものでした。吸収する以上、熱と活性酸素は無機・有機のどちらにもある程度ともないます。
- 酒さにノンケミカルをすすめる実際の根拠は「熱が出ないから」ではなく、ほとんど浸透せず、刺激やアレルギーを起こす成分が少ないという点です。その代わりに落ちにくいという弱点があり、それを落とそうとする洗浄と摩擦が、敏感な肌では新たな悪化因子になります。
- 2026年時点での分かれ道は、無機か有機かよりも剤形と一緒に配合されている成分、そして個人の反応です。無香料か、アルコールフリーか、落としやすい剤形か、自分の生活に合っているかが先で、炎症の強い時期には製品よりも帽子や日傘といった物理的な回避が優先されます。
ノンケミカルは本当に紫外線をはね返しているだけなのか
ノンケミカルの代表的な成分である酸化亜鉛(ZnO)と酸化チタン(TiO2)は、長いあいだ「物理的な遮断剤」と呼ばれてきました。鏡のように紫外線を反射して防ぐという説明がいつも一緒についてまわり、この言い方が定着するにつれて「反射だから刺激がない」という認識が自然にできあがりました。
ところが2016年にColeらがPhotodermatology, Photoimmunology and Photomedicineに発表した光学測定の研究が、この通説を正面から覆しました。光をあらゆる方向から測る積分球という装置で、二つの成分が紫外線をどれだけ反射し、どれだけ吸収しているかを定量的に測ったところ、紫外線領域全体にわたる平均反射率は4〜5パーセント程度にすぎませんでした。SPF 2にも届かないわずかな値です。
では、残りの防御効果はどこから来るのでしょうか。95パーセント以上は反射ではなく、半導体のバンドギャップ吸収という仕組みによるものでした。つまり、ノンケミカルの防ぎ方も本質的には吸収だということになります。
白浮きは紫外線を反射して起きるものではありません
興味深いのは、波長によって様子が変わるという点です。紫外線の領域では吸収が主役ですが、長波長のUVAと、目に見える可視光の領域では反射率がむしろ高くなります。
ノンケミカルを塗ったときに顔が白くなる白浮きは、この可視光の反射によるもので、紫外線を反射して起きているわけではありません。白く見える度合いと紫外線防御力は別の軸の話ですから、白浮きの強い製品のほうがよく防いでくれるとは言いにくいところです。逆に、白浮きがほとんどない製品は防御力が弱い、と決めつけることもできません。
用語が変わりつつある理由
ケミカルが紫外線を吸収して防ぐことはよく知られています。ところがノンケミカルの防ぎ方も結局は吸収だとすると、この二つは思っていたより互いに近いことになります。無機フィルターも有機フィルターも、化学的に処理されコーティングされた合成粒子だという点でも同じです。
そのため学術的には、「物理的か化学的か」という区分に代えて、「無機か有機か」という化学構造にもとづく用語へ少しずつ移りつつあります。物理的という言い方が、まるで肌と何のやりとりもせずに光だけを返しているかのような誤解を生んできたからです。そして処方技術が進むにつれて、この無機・有機という区分さえ、実際の使用感を説明する力が少しずつ弱くなっています。
この話を長くしているのには単純な理由があります。根拠を取り違えていると、判断もその方向に傾いてしまうからです。「ノンケミカルは反射だから肌と相互作用しない」と信じていると、使っているあいだに出てくる不調を、製品ではなく自分の肌のせいにしてしまいます。それでもっと強く洗い、もっと長く我慢して、本当は変えるべきだった点を通りすぎてしまいます。診察でよく出会うのが、まさにこの道筋です。
吸収した紫外線はどこへ行くのか — 熱と活性酸素
紫外線を吸収したのなら、そのエネルギーは消えてなくなるわけではなく、どこかへ転換されなければなりません。この点でノンケミカルとケミカルは、実は似たような立場に置かれます。
従来のケミカルは、吸収した紫外線のエネルギーを分子の振動を通して熱に変えます。そしてノンケミカルもまた、吸収したエネルギーのかなりの部分を熱として放出します。紫外線を吸収するフィルターであれば、無機でも有機でもある程度の熱の発生をともなうということです。
誤解を避けるためにはっきりさせておくと、これはノンケミカルが特別に危険だという話ではありません。ノンケミカルだけが熱を出さない、という説明が正確ではないというだけです。
活性酸素の話も、誇張せずに見ます
ノンケミカルの場合、吸収したエネルギーの大部分は熱として抜けていき、一部は粒子の表面で反応を起こして活性酸素をつくることがあります。酸化チタンはもともと汚染物質を分解する光触媒としても使われる素材なので、この性質が肌の上で現れれば活性酸素が生じて酸化ストレスになりうる、という指摘が出てきます。
ただ、この話も一方向に寄せて読まないほうがよいと思います。同じ酸化チタンでも結晶構造によってこの活性は大きく変わり、日焼け止めに主に使われる安定した形は活性がずっと低くなります。そこに粒子の表面を薄くコーティングすれば、活性酸素の生成はかなりの部分が抑えられます。
オーストラリアのTherapeutic Goods Administration(TGA)の検討報告書でも、ナノ粒子が活性酸素をつくりうるという点と、同時にコーティングと結晶形の選択によってこのリスクを管理できるという点が、あわせて扱われています。まとめると、ルチル型と表面コーティングを採用した現在の品質管理されたノンケミカル製品では、活性酸素の問題はかなり抑えられていると見てよさそうです。
熱というものさしだけでは優劣をつけにくい
ですから、熱や活性酸素というものさしだけで見ると、ノンケミカルがケミカルより明らかに優れているとは言いにくくなります。ここで一つの問いが残ります。では、酒さや敏感肌にノンケミカルをすすめてきた根拠は何だったのでしょうか。
では、酒さにノンケミカルをすすめる本当の根拠は
酒さは熱が代表的な悪化因子となる疾患です。熱い食べ物、サウナ、運動、日差しによる局所の温度上昇が、赤みやほてりを引き起こしたり悪化させたりします。だからこそ「ノンケミカルは熱を出さない」という説明が、酒さの患者さんにはとくに説得力をもって響いてきたのです。
ところが先ほど見たように、紫外線を吸収して熱に変えるという点では、ノンケミカルもケミカルも似ています。熱という理由だけでノンケミカルがいつでも最善だと決めつけるのは難しい、ということです。ノンケミカルのほうがよいと考えられる事情はありますが、その根拠は「まったく熱を出さないから」ではありません。
もう一つ触れておきたいことがあります。紫外線曝露が酒さで問題になる経路は、局所の温度上昇だけではないという点です。ですから「熱が出るかどうか」だけを基準にすると、そもそもなぜ紫外線対策が必要なのか、という手前の問いが見えなくなります。何を塗るかを悩む前に毎日塗れているかどうかが先だというのも、同じ理由です。製品選びに時間を使いきって、肝心の継続ができていない場合が思いのほかよくあります。
根拠を立て直してみると
酒さや敏感肌にノンケミカルをすすめる一次的な根拠は、次のように整理できます。
- ほとんど浸透しません — 粒子が角質層の外側にとどまる性質のため、全身への曝露に対する懸念が小さくなります。
- アレルギーを起こしやすい成分が少なめです — 接触アレルギーという面での負担が低いほうです。
- 既存の有機フィルターより刺激の可能性が相対的に低めです — とくに古い世代の有機フィルターと比べたときにそう言えます。
- 酸化亜鉛そのものの軽度な鎮静作用が報告されている点も加わります。
つまりノンケミカルは今も合理的な選択肢であり、この記事はそれを否定しようとしているわけではありません。ただ「熱が出ないから安全だ」という説明だけは正確ではない、という点を指摘しているのです。根拠が揺らげば、その上に立てた判断も揺らぐからです。
そして、こうした有効な長所とは別に、ノンケミカルには臨床でしばしば見落とされる弱点が一つあります。落ちにくいという点で、これが敏感な肌では思いのほか大きな問題をつくります。韓国の酒さ診療の現場でも、ノンケミカルをすすめると同時に、落ちにくさとそれによる洗浄刺激というトレードオフをあわせて指摘する例が増えていますし、酒さのスキンケアを扱う講演でも、ノンケミカル以外の選択肢に言及する声が少しずつ増えています。
本当の問題は、塗るときではなく落とすときに起きます
酸化亜鉛は水にまったく溶けない無機化合物です。水に溶けないというこの性質が紫外線防御機能の核心ですが、同時に洗浄における最大の障害にもなります。
酸化亜鉛の粒子は角質層のいちばん外側に粒子のまま付着し、乳化剤とワックスからなる剤形がこの結びつきをさらに強くします。水ベースのクレンザーは表面の一般的な汚れは洗い流しますが、この粒子と剤形の結合を十分にほどくところまではいきません。
ノンケミカルとケミカルの実質的な違いが際立つのが、まさにこの部分です。仕組みや熱の発生は似ていても、落としにくさという点ではノンケミカルのほうが明らかに手強いのです。
残留物は二つの方向から肌を悩ませます
十分に落としきれなかったノンケミカルの残留物がつくる問題は、二つの方向に分かれます。
- 毛穴詰まり — 粒子とオイル、ワックスの複合的な残留が毛穴をふさぎ、小さなぶつぶつやコメドの原因になることがあります。
- 洗浄によるバリア損傷 — この残留物を何とか落とそうとして強い界面活性剤を繰り返し使い、物理的にこすってしまう過程で、かえって肌のバリアが傷むという逆転が起こります。
すでにバリアが弱っている酒さや敏感肌では、洗うという行為そのものが新しい悪化因子になります。ノンケミカルがよいと聞いて塗ったのに、それを落とす過程で肌がさらに敏感になっていく悪循環が、まさにこの地点で生まれます。
ですから、焦点を移す必要があります。何を塗ったかに劣らず、どう落とすかが敏感な肌の状態を左右するわけです。
では、どう落とせばよいのでしょうか
一般的なノンケミカル製品は、乾いた肌にクレンジングオイルを先になじませて剤形を溶かし、そのあと弱酸性の洗顔料でもう一度洗う方法が有効です。このとき、肌が水に濡れた状態でオイルをのせると乳化が先に起きて洗浄力が落ちますから、クレンジングオイルは乾いた肌に先に使ってください。
ただしウォータープルーフでない製品なら、バリアの弱い方では一次洗浄だけで十分な場合もあります。習慣的なダブル洗顔が、かえってバリアの負担になりうるという点もあわせて覚えておいていただくとよいと思います。二回洗うことが、いつもより清潔な選択とはかぎりません。
整理すると、洗浄で調整できる変数は四つほどです。クレンザーの強さ、洗う回数、こする程度、そしてお湯の温度です。たいていはこのうち一つか二つを変えるだけで体感が変わりますが、逆に製品ばかり替えてこの四つをそのままにしていると、同じ場所を回りつづけることになります。どのノンケミカルを使っても同じように赤くなると感じておられるなら、製品ではなくこの四つを先に点検されるほうが早道です。
摩擦は落とすときだけに起きるものではありません
洗浄段階の摩擦が問題なら、塗る段階の摩擦も同じ理屈から自由ではありません。白浮きが残るのが嫌で何度もこすって伸ばしたり、伸びの悪い重い剤形を力を入れて広げたりする動作が繰り返されれば、それ自体が物理的な刺激になります。伸びのよい剤形を選ぶことが、単なる使用感の問題ではなく刺激の問題でもある理由です。
診察で塗り方をうかがうと、製品よりも動作のほうに原因が現れている場合が意外とよくあります。少量を数回に分けてのせ、軽くたたいて広げる方法に変えるだけで、ほてりが減る方もいらっしゃいます。ただしこれにも個人差があり、すべての方に同じ程度に当てはまるわけではありません。
落としやすいように設計された剤形があります
洗浄刺激が核心の問題であれば、解決の方向の一つははっきりしています。はじめから落としやすいように設計された剤形を選ぶことです。
イージーウォッシュ、あるいはイージーウォッシャブルと呼ばれる剤形は、クレンジングオイルを使わなくても、弱酸性の洗顔料や水洗いだけで十分に落とせるようにつくられた日焼け止めのことです。一般的な日焼け止め、とくにウォータープルーフ製品が汗や水に耐えるように水をはじく疎水性の基剤を使うのとは正反対に、イージーウォッシュの剤形は粒子と基剤を水になじむ方向に変えて、洗浄をしやすくします。
原理は三つの軸が組み合わさっています
- 粒子表面の親水性コーティング — 通常のノンケミカルは粒子を水をはじく膜で包んでオイルに分散させますが、この膜が肌との結びつきを強くして洗浄を難しくします。イージーウォッシュの剤形では反対に、粒子に水となじむコーティングを施し、水が触れると粒子と肌のあいだに入り込んで結合がほどけるように設計します。
- 自己乳化する基剤 — 剤形そのものが少量の水と摩擦を受けたときに自ら乳化して細かな液滴の構造をつくり、その中にオイル成分と紫外線フィルターの粒子を閉じ込めて、すすぎのときに一緒に流れ出るようにします。
- 膜をつくる成分の最小化 — 高耐水性の日焼け止めは硬い膜を形成する成分で粒子をとどめますが、この成分が少ないほど物理的な結びつきが弱く、落としやすくなります。
あらためて整理すると、イージーウォッシュは何か特別な新成分を入れてつくるものではなく、粒子のコーティングと基剤の設計を変える処方技術です。成分表で新しい名前を探したからといって見分けられるものではない、ということです。
| 区分 | 一般的なノンケミカル剤形 | イージーウォッシュ剤形 |
|---|---|---|
| 粒子のコーティング | 水をはじく疎水性の膜 | 水になじむ親水性のコーティング |
| 基剤の設計 | 乳化剤・ワックスで結びつきを強化 | 水と摩擦で自ら乳化 |
| 膜をつくる成分 | 多いほど耐水性が上がる | 最小化するか除く |
| 洗浄 | クレンジングオイルのあと弱酸性の洗顔料 | 弱酸性の洗顔料または水洗いが中心 |
| 適した場面 | 強い紫外線・汗の多い活動 | 屋内中心の日常、敏感な肌の毎日のケア |
実際に韓国でも、ノンケミカルをベースにしたイージーウォッシュ製品が複数のブランドから発売されていて、主に敏感肌や乳幼児、アトピー性皮膚炎や酒さの肌を対象にしています。一方で、ノンケミカルの代わりに検討できる新しい世代の有機フィルターも選択の幅を広げてくれているため、「ノンケミカルでなければ答えがない」という二分法は、以前より立つ場所が狭くなりました。
よく落ちると、防御力は損をしないのでしょうか
ここで自然に浮かんでくる疑問があります。落としやすくつくれば、その分だけ防御力も弱くなるのではないか、というものです。
結論から申し上げると、この部分はまだ断定するには早い領域です。原理の上では、酸化亜鉛を疎水性のオイル相に分散させた剤形のほうが、親水性に分散させた剤形よりSPFが高く測定される傾向が報告されています。オイル相に粒子が含まれると、肌の上でより均一な膜を形成するためです。
したがって、親水性の分散が多くなるイージーウォッシュの剤形では、理論上SPFの維持力がやや低くなる可能性があります。また、膜をつくる成分を減らすほど汗や水に対する抵抗性も落ちますから、長時間の活動中に防御力を保つという面では損をすることがあります。
実際に、一部のイージーウォッシュ製品は一次洗浄だけでは落としきれなかった、という非公式な観察もあり、洗いやすさと防御の持続力のバランスは製品ごとに違って現れます。同じイージーウォッシュという名前がついていても、実際の使用感がまちまちなのはそのためです。
ただし、あわせて押さえておきたい点が二つあります。落ちにくい製品であっても一定時間ごとに塗り直すことが日焼け止め使用の原則だという点、そして処方技術が進むにつれて製品間の防御力の差が縮まっているという点です。
場面に分けて考えるほうが現実的です
- 屋内中心の日常的な紫外線対策 — 洗浄の負担を減らすことのほうが重要な場面ですから、イージーウォッシュの剤形が合理的な選択になります。
- 敏感で炎症のある肌の毎日のケア — 毎日繰り返される洗浄刺激の総量が問題ですから、同じ方向で考えます。
- 乳幼児の肌のケア — 強くこすって落とすことが難しい場面ですから、落としやすい剤形が有利です。
- 海水浴やスポーツなど、強い紫外線と多量の発汗 — このときは防御の持続力が高いウォータープルーフ製品のほうが適しています。
落としやすい剤形がすべての場面で正解というよりも、自分の生活パターンに合った剤形を選ぶことが核心です。平日と週末で違う製品を使うのも、十分に合理的な選択です。
結局、分かれ道は無機か有機かではありません
ここまでの話を一行にまとめると、こうなります。ノンケミカルかケミカルかという二分法は、私たちが思っていたほど重要な分かれ道ではないかもしれません。防御の仕組みも吸収という点で似ていて、熱の発生もどちらにもともない、安全性も製品の設計によって分かれるからです。
実際に酒さや敏感肌で刺激を起こす主な原因は、紫外線フィルター成分そのものよりも一緒に配合されている他の成分であることが多くあります。界面活性剤、防腐剤、香料、アルコールが代表的です。とくにアルコールと香料、メントール、ペパーミントオイルは酒さを悪化させる成分として知られています。
ですからノンケミカルかケミカルかを問う前に、無香料か、アルコールフリーか、刺激成分が除かれているかを先に見るのが順番です。成分表でフィルターの名前を探すことより、こちらのほうが実用的な場合が多くあります。
イージーウォッシュの剤形でも、洗浄を助ける界面活性剤がどの種類かが重要になります。ポリエチレングリコール系より、植物由来のおだやかな界面活性剤のほうが敏感な肌には合いやすいほうです。よく落ちるという特性だけを見て選ぶと、その特性をつくり出している成分が刺激源になる状況が生じることがあります。
ですから成分表を見るときにも順番があります。フィルターの名前を探して無機か有機かを判定する作業は、むしろ後回しにしていただいてかまいません。まず香料とアルコールが入っているか、メントールやペパーミントオイルのように清涼感を出す成分があるかを確認し、そのあとで剤形の性格を見ます。ひんやりする、さっぱりするという使用感が、酒さの肌では刺激のサインである場合があります。
付け加えると、同じ製品でも季節によって反応が変わることがあります。汗や皮脂が増える時期には残留物がたまりやすくなって洗浄の負担が大きくなり、乾燥する時期には同じ洗浄がより強く感じられます。一度決めた製品を一年中そのまま使いつづけるよりも、季節と活動量に合わせて剤形を調整されるほうが現実的です。ただしこれにも個人差があります。
大きな原則だけ整理すると
- バリアが比較的保たれている軽症〜中等症の酒さ — 無香料・アルコールフリーの低刺激製品が無難な出発点になります。
- ノンケミカルを落とす洗浄刺激のほうが大きな問題である場合 — 落としやすい剤形に方向を変えるほうがよいと思います。
- 炎症の強い時期 — 日焼け止めそのものより、帽子や日傘といった物理的な回避を優先されるほうが安全です。この時期は製品をのせること自体が刺激になりえます。
2026年時点であらためて見る選び方
フィルターの分類を基準にしてきた習慣を下ろすと、残る基準はむしろ単純です。
- UVAとUVBを十分に両方防いでくれるか — 広い波長域をカバーできているかを確認します。
- 光に安定しているか — 紫外線を浴びているあいだ防御性能がもちこたえてくれるか、という問題です。
- 適切なSPFとPAを備えているか — 数値をむやみに高くすることより、生活パターンに合っているかが重要です。
- 自分の肌に合う剤形か — 伸びのよさ、落としやすさ、仕上がりの感触がここに含まれます。
- 十分な量を毎日欠かさず塗れているか — どのフィルターを選んだかより、この項目が実際の防御効果を左右するいちばん大きな変数です。
そして最後の軸は個人の反応です。同じ成分、同じ剤形でも、肌の状態や敏感さ、併存する疾患によって反応が異なることがあります。新しい製品を使われるときは、顔全体にいきなり塗らず、少量で先に試されるほうが安全です。症状が続いたり悪化したりする場合は、ご自身で判断して製品を替えつづけるより、診察を受けられることをおすすめします。
診察ではこの順番で確認します
「日焼け止めを塗ると顔が赤くなります」というお話をうかがったら、まずいつ赤くなるのかを分けておたずねします。タイミングが違えば原因も違うからです。
- 塗った直後にほてる場合 — アルコールや香料のような基剤の成分、あるいは伸ばす動作の摩擦をまず見ます。
- 落としたあとに赤くなる場合 — 洗い方とクレンザーの強さ、ダブル洗顔の回数、お湯の温度を確認します。
- 何も塗らなくても赤い場合 — 日焼け止めは原因ではなく、疾患そのものの状態を先に見る必要があります。
この切り分けが終わってはじめて、製品を替えるのか、方法を変えるのか、治療を始めるのかが決まります。順番を飛ばして製品ばかり替えていると、肝心の問題だった洗い方の習慣はそのまま残ってしまう場合が多くあります。
紫外線対策と治療は、互いの代わりにはなりません
紫外線対策は酒さの管理の土台に近いもので、すでに定着した血管や炎症を戻す役割まで担うわけではありません。逆に、施術だけを繰り返しながら紫外線と洗浄刺激をそのままにしておくと、回復が遅く感じられることがあります。二つの軸を一緒に進める理由です。
エイブル皮膚科で赤み・酒さに使っている軸は次のとおりです。何を使うかは診察で確認した状態によって変わり、すべての方に同じ組み合わせを当てはめることはしません。
- Vビーム(595nmパルスダイレーザー) — 一時的な拡張ではなく、固定した血管が残っている場合に段階的に使います。
- LDM — バリアが弱って刺激に敏感になった状態で、鎮静とバリア回復のほうを補う位置に置きます。
- PDT — 丘疹・膿疱が一緒に出てくる様子のときに検討します。
- Gold PTT — 皮脂腺に関連した炎症性の病変が混じっている場合にあわせて考えます。
- リジュラン(PN) — 回復と肌のきめ、水分保持が必要な段階に配置します。
- BELOTERO REVIVE — ヒアルロン酸ブースターとして、乾燥して薄くなった肌の水分保持を補うときに使います。
施術を進める期間には、日焼け止めの剤形もあわせて調整します。回復中の肌では、刺激成分が除かれていて落としやすい剤形のほうが負担が少ないほうで、塗るときも落とすときも、こする動作を減らしていただくようご案内します。いつからどの剤形に戻すかは施術の種類と肌の状態によって変わりますので、診察で一緒に決めます。
あわせて、この記事にまとめた内容は日焼け止めの成分と剤形に関するこれまでの研究結果を集めたもので、すべての方に同じように当てはまるわけではありません。引用した資料の一部には実験室単位の光学測定研究や小規模な研究が含まれ、製品ごとの処方やコーティングの方法によって実際の結果が変わることがあります。どの日焼け止めであっても敏感な肌では刺激源になりえますし、とくに酒さの炎症が強い時期には製品の使用そのものが症状を悪化させることがある点も、あわせてご考慮いただければと思います。
診察から施術まで
皮膚科専門医が直接診察して原因の層を確認し、機器とパラメータを決めたうえで、同じ専門医が施術まで続けて行います。カウンセラーが施術をすすめる仕組みではありません。
回数・間隔・維持の時期・費用は、初回の施術前に一緒に決めます。
よくあるご質問
- 血管レーザーのような施術を受けている最中ですが、紫外線対策はどうすればよいですか?
- 施術と施術のあいだの期間は、紫外線曝露と洗浄刺激を一緒に減らすことが回復の助けになるほうです。無香料・アルコールフリーで落としやすい剤形を使い、塗るときも落とすときも、こする動作を減らす方向で組み立てます。施術直後のどの時点からどの剤形を使うかは、施術の種類と肌の状態によって変わりますので、診察で一緒に決めます。
- 新しい日焼け止めを使うとき、どのように試せばよいですか?
- 顔全体にいきなり塗らず、少量で先に試されるとよいです。同じ成分でも、個人の肌の状態や敏感さ、併存する疾患によって反応が異なることがあるためです。症状が続いたり悪化したりする場合は、ご自身で判断して製品を替えつづけるより、皮膚科専門医にご相談いただくことをおすすめします。
- 炎症が強くて顔がとても赤いときも、日焼け止めは必ず塗るべきですか?
- 炎症の強い時期には、製品をのせること自体が刺激になることがあります。この時期は日焼け止めに頼るより、帽子や日傘、屋内に避けるといった物理的な回避を優先されるほうが安全です。炎症が落ち着く程度に合わせて、刺激成分が除かれた剤形から少しずつ戻していく順番で組み立てます。
- 日焼け止めを塗ると顔がほてります。ノンケミカルに替えればよくなりますか?
- ほてりの原因がフィルターの種類ではなく、一緒に配合されている成分である可能性も大きいです。アルコールと香料、メントール、ペパーミントオイルは酒さを悪化させる成分として知られています。ノンケミカルに替えるだけでは解決しないことがありますので、無香料か、アルコールフリーかを成分表で先にご確認になることをおすすめします。
- よく落ちる日焼け止めは、紫外線防御力が弱いのではありませんか?
- 剤形の特性上、防御の持続力でいくらか損をする可能性はあります。酸化亜鉛を疎水性のオイル相に分散させた剤形のほうが、親水性に分散させた剤形よりSPFが高く測定される傾向が報告されていますし、膜をつくる成分を減らせば汗や水に対する抵抗性も落ちるからです。ただし日常的な屋内生活では十分な場合が多く、強い紫外線と発汗が予想される場面だけウォータープルーフ製品を別に用意する、という分け方で使っていただければと思います。
- イージーウォッシュの日焼け止めなら、水洗いだけで本当に全部落ちますか?
- 製品によって異なります。屋内中心の短い外出であれば、水洗いと弱酸性の洗顔料一回で十分な場合が多いのですが、何度も塗り重ねたり長時間の屋外活動をしたりしたあとは、おだやかなクレンザーでもう一度洗うほうが安全です。イージーウォッシュだからといって、残らず落ちると断定するのは難しいところです。
- クレンジングオイルは、水に濡らしてから使うのではないのですか?
- ノンケミカルを溶かすことが目的であれば、乾いた肌に先に使うほうがよいです。肌が水に濡れた状態でオイルをのせると乳化が先に起きて、剤形を溶かす力が落ちるためです。ただし習慣的なダブル洗顔がかえってバリアの負担になる場合もありますので、毎日必ず二回洗わなければならないとお考えになる必要はありません。
- ノンケミカルが落ちにくいのですが、毎日クレンジングオイルでごしごし落とすべきですか?
- 強くこする洗い方はおすすめしません。乾いた肌にクレンジングオイルをやさしくのせて剤形を溶かし、弱酸性の洗顔料で仕上げる程度で十分な場合が多く、ウォータープルーフでない製品なら一次洗浄だけで終えてよい場合もあります。落とそうとする摩擦そのものがバリアを傷めるという点を、いつも念頭に置いていただければと思います。
- ノンケミカルの活性酸素の話が心配です。危険なのでしょうか?
- 誇張せずにご覧になるとよいと思います。酸化チタンはもともと光触媒としても使われる素材なので活性酸素をつくることがありますが、同じ成分でも結晶構造によって活性が大きく変わり、日焼け止めに主に使われる安定した形は活性がずっと低くなります。さらに粒子の表面を薄くコーティングすれば、活性酸素の生成はかなりの部分が抑えられます。品質が管理された製品では、かなり抑えられている部分とお考えください。
- ノンケミカルを塗ると白浮きしますが、紫外線を反射しているからでしょうか?
- 白浮きは紫外線ではなく可視光を反射して生じます。光学測定の研究では、酸化亜鉛と酸化チタンの紫外線領域の平均反射率は4〜5パーセント程度と低く、反射率が高くなるのは長波長のUVAと目に見える可視光の領域でした。ですから、白く見える現象と紫外線防御力は別の話です。
- ノンケミカルは熱が出ないと聞きましたが、本当ですか?
- 正確な説明ではありません。ノンケミカルの防御効果も大部分は紫外線を吸収する形で成り立っていて、吸収したエネルギーのかなりの部分は熱として抜けていきます。紫外線を吸収するフィルターであれば、無機でも有機でもある程度の熱の発生をともないます。ただしこれはノンケミカルが特別に危険という意味ではなく、熱というものさしだけで優劣をつけるのは難しいという意味です。
- 酒さがあると、必ずノンケミカルだけを使わなければいけませんか?
- そうとはかぎりません。ノンケミカルが肌にほとんど浸透せず、アレルギーを起こしやすい成分が少ないため合理的な選択肢であることは確かですが、その根拠は熱が出ないからではなく、浸透と刺激が少ないという点にあります。防御の仕組みや熱の発生だけで見ればケミカルと大きくは変わりませんので、ノンケミカルを落とす過程で肌がより敏感になるようであれば、落としやすい剤形や低刺激のケミカル製品へ方向を変えるほうがよい場合があります。